寒明けの宙(そら)へ赤子の土踏まず
観月
春月光この世肩から辷り落つ
林達男
ガジガジと猫エリカの枝しごきおり
苔子
寂寞は夢を破った樹氷かな
白石ポピー
膨らんだ泡に映った顔を撃つ
白石ポピー
呑気者が黙って消える花見かな
まめ
白梅の月にさらはれうたかたに
林達男
上がり込む遠い親戚春の雷
まめ
蝶生まれ校舎の空に日章旗
観月
八重・枝垂れ・白加賀・南高・人・人・人
苔子
万両はおそろしいです黒がくる
白石ポピー
クレーンが片寄せ眺む暁天の紅
苔子
雪の音シーツの海をまさぐりぬ
林達男
産土の雪の便りは父の筆(ひつ)
観月
華奢な手を新春舞台で握手する
まめ
初詣の客を吸込む牛丼屋
まめ
返り花返り花あと返り花
白石ポピー
手袋を脱いで伝える手話の愛
観月
不良少年のやうに狐火疾し
林達男
結晶の花咲きはじけうすはりの球
苔子
雪の日は花柄の傘さしませふ
観月
深海のテズルモズルの夢紅く
苔子
仏塔をひとつまみだけ入れた空
白石ポピー
真っ白な絵画の前のショートボブ
白石ポピー
落下する手袋の中ハワイアン
亀歩
やんわりとつむじに到来冬将軍
亀歩
外套を脱ぎ去りてゆく青い無音
林達男
木枯しの孤独を売っている街角
林達男
月無夜狂いて咲ける銀杏の黄
苔子
冬の夜にトニーとマリアの悲恋鳴る
まめ
初雪を見れて喜ぶ予後の母
観月
トナカイとサンタの息合う演奏会
まめ
かさついた足音と冬の鼻先
白石ポピー
饒舌な母に頷く冬帽子
まめ
ひとつの元素に還りぬ冬の夜更け
林達男
針供養強制されるボランティア
亀歩
幸せと再会をした秋の雪
林達男
気温差に早足になる猫と往く
白石ポピー
まっ黄っきおうおうおおおう虎麗(とらうらら)
亀歩
住職の法話を待つや薪ストーブ
まめ
熱海句会 2023.10.14
ゲスト 町田康先生( 兼題『蓑虫』『とろろ』のご出題 )
・頬髭にとろろ残して驕る木偶
野葛間
・栗はじけ行き倒れたる骨の音
野葛間
・あだし野や蓑虫縋る無縁仏
野葛間
・忘却の膜はとろろのマチエール
白石ポピー
・蓑虫鳴く職歴のほか何もなし
心
・通ひ路を見失ひをり草の花
心
・蓑虫やかまいたくなる死の気配
・悪口の後味痒しとろろめし
苔子
・マチネーとソワレの間とろろ飯
心
・月出でて蓑虫摘み僧ひとり
野葛間
・蓑虫や無言の中に凝る声
・蓑虫やパンク小僧の艶やかさ
苔子
・道半ばふと嫌になるとろろ汁
・とろろ汁逝きし女房の血が滲み
野葛間
・猫逝きて床暖入れる日の寂し
苔子
・ケイトウは瞼の裏にもえうつる
白石ポピー
・子に応(いら)ふ父の裸足や鰯雲
まめ
・天井のない牢獄に鳥渡り
苔子
・ファミチキになりらむ鶏の声を聴く
白石ポピー
・蓑虫や無頼と食べる焼餃子
・蓑虫に怜悧の音や糸紡ぐ
まめ
・蓑虫も裸でいたい余炎かな
苔子
・とろろ汁亡き友の声したやうな
心
・蓑虫を剥きて敷妙を占ふ
白石ポピー
・少年の砂上の相撲を見るカモメ
まめ
・蓑虫よこの店もまた閉店か
心
・お仕着せの浴衣集まる秋の花火
まめ
・残菊も仇花もただ咲くばかり
白石ポピー
・あと五分急いで啜るとろろ汁
・食券を置き温かいとろろ蕎麦
まめ
町田先生、参加者の皆様、ありがとうございました!