いちご俳句会特別句会 『福笑い大句会』作品集

いちご俳句会特別句会

『福笑い大句会』作品集

 

〈ゲスト〉(五十音順)

 

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🍊石川浩司さん🍊

1961年東京生まれ。バンド「たま」1990年に「さよなら人類」でデビュー。レコード大賞新人賞受賞、紅白にも出場。現在はソロでギター弾き語りの他、ガラクタパーカッションで8つのバンドを兼任。世界一とも言われる空き缶コレクターとして「懐かしの空き缶大図鑑」等の著作もある。映画、演劇にも時折出演。西荻窪のへなちょこアートショップ「ニヒル牛」のプロデューサーでもある。

 

 

 

 

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🍊西村麒麟さん🍊

(略歴)

1983年生まれ。「古志」同人。第1回石田波郷俳句新人賞受賞。第5回田中裕明賞受賞。第7回北斗賞受賞。第65回角川俳句賞受賞。句集『鶉』『鴨』。

 

 

《西村麒麟選》

[特選]

 手袋を脱いで伝える手話の愛      (観月)

(評)俳句だと「手袋」で冬だとわかるので、寒い中で指を出し手話で愛を伝えている事がわかります。「手袋を脱いで」という表現で、相手の事を大切に想っている事がよく伝わります。

 

 犬小屋に犬の表札クリスマス    (杉澤さやか)

(評)ちゃんと犬にも立派な犬の表札が。ちょっと誇らしげな犬の表情が想像出来ます。寒くて綺麗なクリスマスの季語により、楽しそうな感じも出ています。

 

 耳に熱帯びっぱなしやクリスマス    (ひろゆう)

(評)クリスマスらしさがよく出ている句だと思いました。目に耳に、クリスマスは煌びやかです。もっとも身近なイベントの一つかもしれません。やや興奮状態にある事を「耳に熱帯びっぱなし」で表せているところが巧い。

 

 金銀の星奪ひ合ふクリスマス    (地由子)

(評)クリスマスの飾りつけで目を引く色は、金や銀でしょうか。飾りや玩具だとしても、星を奪い合うと考えれば、美しい遊びかもしれません。クリスマスらしい句です。

 

[入選 

○ 獅子舞の中の親父はサウナ風呂    石川浩司

 (評)なんとなく、獅子舞の中の親父はサウナが似合うような人であって欲しいような気がします。祭の一日はこんな親父さんが格好よく見える日かも。

 

○ 獅子舞のくねる商都や事も無し    (つよし)

(評)「くねる」に工夫が感じられ楽しい句となっています。都で無く「商都」とした事で大阪辺りの賑やかなイメージが伝わってきます。

 

○ 丹前が集うロビーの聖樹かな    (まめ)

(評)旅先のホテルのロビーでしょうか。ホテルの丹前を着ている宿泊客がクリスマスツリーの前でウロウロしているのは楽しい。その頃はどこのホテルも煌びやかで、混んでいる事でしょう。

 

○ 新宿は聖樹の森や堕天使たち     (観月)

(評)新宿とは聖樹の森という発想が素晴らしいと思いました。自然では無く人工的な美が新宿らしいです。「堕天使たち」に歌舞伎町あたりのイメージが出過ぎてしまうので、ちょっとだけ抑えて「天使たち」としてみるのも手かもしれません。

 獅子舞の物言わぬ口近づきぬ     (杉澤さやか)

(評)大きな口がぬっと寄った迫力があります。ギョッとしたのかもしれませんね。小さな事ですが「言わぬ」は「言はぬ」の方が良いと思いました。

 

○ 獅子舞のツーステップののしのしと    (かわせみ)

(評)なるほど。獅子舞という季語は勇ましく目出たいものですから、立派に詠もうとする事が多いのですが、この句は獅子舞を身近で親しみの抱ける存在に見せてくれています。「ツーステップ」はなかなか面白い。

 

○ 祝儀包み獅子舞待てり過疎の里     (幸夫)

(評)リアルな村の感じが出ています。律儀に祝儀を包み待っている人。順番に村を巡る獅子舞の姿。昔の村の獅子舞はこんなイベントだったかもしれません。

 

○ ご祝儀を大人に預け角兵衛獅子    (ゴアジュース)

(評)確かにあれは預け無いと出来なさそうです。しかしお年玉と一緒で大人に預けたものは返ってはきません。越後獅子と言うよりも角兵衛獅子の方がこの句によく合っているように感じました。

 

○ クリスマスケーキいつでも得する子   (ゴアジュース)

(評)いつも得する子、ちょっと損をしてしまう子、確かにいますね。苺かチョコレートのプレートが乗っているところのケーキが回ってきたのでしょうか。「クリスマスいつでも得をする子ども」等では面白く無い。思い切ってクリスマスケーキまで言ったところが成功しました。

 

○ 麻酔から覚めぬ白猫雪催     (岡村知昭)

(評)雪が降りそうな空は、泣きそうな空とでも言えるかもしれません。白猫とのみ猫の情報が書かれていますが、これで十分綺麗な猫のイメージが句から伝わってきます。

 

胸焼けや福笑いはじまっていて    (岡村知昭)

(評)なぜ胸焼けがしているのかはわかりませんが、「福笑いはじまっていて」のリズムが胸焼け中の状態とうまく響きあっているように感じました。おせちの食べ過ぎか、飲み過ぎか、体調不良、もしくは精神的な影響なのか。胸焼けに説明が無い事で、不思議な味わいがある句に。

 

 雪降りし 息子と猫の 2人旅             (そうへい)

(評)息子と猫の2人旅は面白いですね。

表記は2よりも二人旅のが良いかもしれません。好みですが、上五を初雪や、等にしてスッキリさせる方法もあります。

 

  雪催山寺庫裏のざわめきて      (洋子)

 

(評)雪の降りそうな空の中、山寺の庫裏がざわめいている感じがすると言うところに面白味を感じました。中七を「山寺の庫裏」とすると漢字が連続して重たくならないかも。

 

 大口で天地うましと獅子頭     (地由子)

獅子頭が天地をうまし、と喜んでいる様子がめでたい。うましは美しでもある。

 

○ 猫抱きて遠目の火事を確かむる     (地由子)

(評)不安だね、こわいね、と猫に語りかけながら抱いている様子が伝わります。猫を詠み込む事によりリアルな作品となっています。

 

○ 雪片のちひさき宇宙ふりつもる      (桜井惠子)

(評)ちひさき宇宙という発想、不思議で美しいと思いました。「ちひさき」という表記にチラチラと降る感じが出ています。下五は「ふりつもり」でも良いかもしれません。

 

○ 月影に素足跳ね上げ黄金(きん)の獅子     (林達男)

(評)素足に着目した点が良いと思いました。少し寒そうですが、いきの良い獅子。

 

○ スケートの軌跡に雪や閉園後     竹生島

(評)繊細な場面を表現出来ていると感じました。特に中七の「軌跡に雪や」は良いですね。もしかしたら下五「閉園後」は少し説明的な感じがしたので、推敲の余地があるかもしれません。地名や施設の名前等、色々と試してみてください。

 

○ 羽根背負い天使歌うや降誕祭     竹生島

(評)子ども達が天使の格好をして聖歌を歌っているのでしょうか。本物の天使もまた羽を背負っているのかもしれない、等と考えました。「背負ひ」の表記の方がこの句に合うかもしれません。好きな句でした。

 

 

 

石川浩司選》

[特選]

 讃美歌もマスクで歌うクリスマス   (観月)

(評)まさに今のこのご時世を詠んだ句。僕も歌手活動をしていますが、本番では客席と距離をとりマスクを外すものの、それ以外はずっとマスクを付けたまま。これがスタンダードな風景にならないことを祈ります。

 

 獅子舞のツーステップののしのしと   (かわせみ)

(評)ミュージシャンやダンサーなら解る、古来からのツーステップリズムに気づいた点が秀逸ですね。ツーステップなのに「のしのし」は獅子舞ならではのものですね。

 

 獅子舞に初挑戦の若き足袋      (ひろゆう)

(評)伝統あるものも、継ぐ人が現れなければ消えていきます。新らしくやってきた若者の躍動感と嬉しさが伝わります。おそらく履き慣れていないであろう足袋のピタピタという感触も感じられます。

 

 雪降りし 息子と猫の 2人旅       (そうへい)

(評)少年と猫が初めての一面真っ白な光景の中に足跡の痕跡を残して旅に出る。それがたとえ近所までだとしても、未知の光景です。いつもの町がまったく異空間として現れる、大人になるといつの間にか忘れてしまう記憶なのかもしれませんね。

 

 猫抱きて遠目の火事を確かむる     (地由子)

(評)冬場は火事が多いですね。遠くにあがる火の手を家の外に出て猫で暖を取りながら不安そうな顔で心配しています。知り合いの家でなければ良いが、と。

 

 

[入選]

 雪原をお座敷列車が切り開く      (まめ)

(評)真っ白き広大な雪景色の中を、楽しげにお銚子を空けて宴会をしながら走るお座敷列車。正月のうらやましい光景ですね。

 

○ のら猫の欠伸のうつる良夜かな    (観月)

(評)冬の寒い日、暖かいこたつに籠ってぼんやり窓から外を見てみると、ふさふさの毛に覆われたのら猫が欠伸をしています。その様子を眺めているうちに自分もうつって欠伸をひとつ。のんびりした良い夜を噛みしめてる様子は幸せですね。

 

○ 獅子舞の物言わぬ口近づきぬ     (杉澤さやか)

(評)ナマハゲなどと違って、獅子舞は体は大きいのに、何も吠えず喋らず、ただただ大きな歯をカチカチ言わせて近づいてきます。それが反って恐怖を増すこともありますね。

 

○ 祝儀包み獅子舞待てり過疎の里    (幸夫)

(評)行事の少ない過疎地では、毎年正月に来る獅子舞も楽しみのひとつ。ご祝儀を用意してやって来るのを待つのは、一週間前のサンタさんにも似ているのかもしれないですね。

 

○ 小悪魔の爪とぐ孤独日みじか    (幸夫)

(評)イタズラ好きの子猫が、爪研ぎ場でもない家の柱かなにかで爪を研いでいます。あっという間に陽が落ちるこの季節の中で。

 

 肩を寄せ小さき茶碗に雪掬ふ     (ゴアジュース)

(評)子供でしょうか、それとも老夫婦でしょうか。珍しい雪に、ついつい茶碗を出して掬ってみました。冬のあたたかい光景ですね。

 

○ みぞれ雪雫となりて枝の先     (洋子)

(評)先ほどまでは雪だったのに、ポタポタと枝の先まで来る頃にはただの雨雫になっています。もう、春の訪れも近いのかもしれません。

 

○ ウチの猫 違う名前に鳴き返し     (桜井惠子)

(評)「たま」なのに「Mi-Ke」でも反応する、もしかして餌をくれるかもしれないと思ったら、とりあえずどんな名前でも返事をしてしまう、ちょっと小狡い性格が猫の性分なのかもしれないですね。

 

○ ハイブリッドグーグルマップで猫の道     (桜井惠子)

(評)地球は人間だけのものではありません。将来はこの様に、いろんな生き物の道が表示される時代が来るかもしれませんね。

 

 初雪や我一番と踏み入れる       (知枝)

(評)雪が珍しい地域では、誰よりも先にその真白にキュッキュッと足跡を付けてみたい気持ちは、大人になっても変わらないですね。

 

 目を細め雪を感じてゐるらしく      (西村麒麟

(評)猫でしょうか、それとも犬でしょうか。「今日は全然景色が違うぞ」と思わず目を細めてしまいますよね。

 

 スケートの軌跡に雪や閉園後      竹生島

 

(評)スケート場の無数の軌跡に雪が降り、すべてを元通りにしてしまいます。天気は、時にお掃除屋さんですね。

 

 

《互選》

 犬小屋に犬の表札クリスマス     (杉澤さやか)  

 

 獅子舞やしばらく海の方を向き    (西村麒麟)  

 

 ペン立てをずらし聖樹を飾りけり    (杉澤さやか)

 

 天丼や少しの雪を欲しつつ     (西村麒麟)  

 

 祝儀包み獅子舞待てり過疎の里     (幸夫

 

 丹前が集うロビーの聖樹かな     (まめ

 

 猫抱きて遠目の火事を確かむる      (地由子)

 

 雪片のちひさき宇宙ふりつもる     (桜井惠子)

 

 吾輩は猫となりけり日向ぼこ   (つよし

 

 新宿は聖樹の森や堕天使たち      (観月)  

 

 ご祝儀に口から手が出獅子の舞ふ      (篤女

 

 一等星指一本に見え隠れ     (かわせみ)  

 

・麻酔から覚めぬ白猫雪催      (岡村知昭

 

 胸焼けや福笑いはじまっていて     (岡村知昭

 

 粉雪や 妻の酒飲む 月あかり      (そうへい)

 

 大口で天地うましと獅子頭      (地由子)

 

 聖劇のベールでケーキ食ぶ園児    (桜井惠子

 

 初雪に灯る花街のひと恋し     (つよし

 

 豪雪に万象色を失へり  (つよし)    

 

 一村の澱み攪拌して獅子舞        (まめ)   

 

 雪原をお座敷列車が切り開く     (まめ

 

 

 ひっそりと下駄の形に積もる雪      (観月)

 

 手袋を脱いで伝える手話の愛     (観月)  

 

 セーターに逝きし猫の毛白と黒      (篤女)

 

 蝋涙のロバに星降るクリスマス      (かわせみ

 

 獅子舞のツーステップののしのしと     (かわせみ)

 

 獅子舞に初挑戦の若き足袋         (ひろゆう)  

 

 前触れもなく初雪の舞いにけり      (ひろゆう)

 

 いで湯には猿たち静かクリスマス     (幸夫)

 

 クリスマス サンタ信じて 母来たる  (そうへい)  

 

 街路樹の聖樹となりて窓灯す     (洋子

 

 雨戸開ける近所の猫に覗かれる     (桜井惠子

 

 ハイブリッドグーグルマップで猫の道       (桜井惠子)   

 

 湯気立ちて器の中に雪うさぎ     (知枝)  

 

 もりもりと肉輝くやクリスマス      (西村麒麟)  

 

 目を細め雪を感じてゐるらしく     (西村麒麟

 

 色違いのマフラー贈る雪のイヴ      (竹生島)

 

 二次会の雪はネオンに紫に     (竹生島)  

 

 獅子舞の中の親父はサウナ風呂 (石川浩司

 

 温暖化雪積無くて泥の靴   石川浩司

 

 鍋敲く音も悦なるクリスマス      (つよし)  

 

 三味線を丁寧に仕舞ひ雪しまく       (篤女)  

 

・獅子舞の物言わぬ口近づきぬ       (杉澤さやか)

 

 はつ春の猫のまあるき欠伸かな      (杉澤さやか)

 

 月煌々猫うずくまる門の陰        (ひろゆう

 

 右近生みし豊能に時間雪の下      (幸夫)  

 

 獅子舞の大きな口を見上ぐ子ら       (洋子

 

 雪催山寺庫裏のざわめきて       (洋子)   

 

 深雪晴笹跳ねかへり信子の忌       (地由子)  

 

 ウチの猫 違う名前に鳴き返し      (桜井惠子)

 

 月影に素足跳ね上げ黄金の獅子   (林達男)   

 

 聖書閉じ貝殻に灯すクリスマスイブ     (林達男)

 

 初雪や我一番と踏み入れる        (知枝)   

 

・スケートの軌跡に雪や閉園後      (竹生島

 

 

《作品》

 クリスマス願うことなら苦離澄増す       (石川浩司)

 

 包まれる毛皮のニャーに生まれたし       (石川浩司)

 

 エアコンの音に漸う慣れた猫            (まめ)

 

 聖菓の銀と白に静もる子らの息         (まめ)

 

 離れ技の子供かなしや角兵衛獅子      (ゴアジュース)

 

 三つ編みで仔猫ほしいと眼()がキラリ    (ゴアジュース)

 

 噛まれたり恋煩いの獅子舞に         (岡村知昭)

 

 涙目や政令指定都市に雪      (岡村知昭)

 

 小食を約束クリスマスツリー          (岡村知昭)

 

 雪の花ひらり手のひら咲きて落つ       (洋子)

 

 正面の我に気付きし冬の猫          (西村麒麟)

 

 嗅覚に初雪を知る猫と我      (竹生島)

 

 

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『福笑い大句会』へご参加頂いた皆様、石川浩司さん、西村麒麟さん、ありがとうございました。

       (いちご俳句会)

              2022  1