町田康『俳句の材木句集』鑑賞

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町田康『俳句の材木句集』鑑賞
   
 
 
 
 

月明かりネジの倉庫に照る身体

 

 

  守衛の制服からのぞいた手や顔は新品のネジと同じ色の金属で、狭い窓に透く月光を増幅する美しさ。しかしその姿はあまり知られていない。(まめ)

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人様の心潰して紅葉柄

 

 

心が傷んで傷んで顔が紙のようにクシャクシャになったまま戻らなかった狩人達。それは人外の生物に喰われかける童話だった。

    日常にふと、人の中の野蛮人と遭い心を捻り潰されたら、これ以上の変貌だろう。望まぬ形に高温で焼き固められ、変な具合に模様が浮き上がり。(まめ)

 

 

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女どち額の幅決め化粧前

 

 …子供の頃に写真と映像で、よく化粧男子(たまにスカート男子)を見ていたせいか、なめらかな化粧顔の女性芸能人に隣る男性芸能人の、略素顔が奇妙に映る。

    女が通常賜る名詞と形容詞を化粧男、スカート男は一部被るが大した事ではない。似合うならやればよい。(まめ)

 

 

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纏綿とほとぶ古家の釣り戸棚

 

  古家の主は古家自身。住民は家の機嫌を取りながら暮らす。欄間でエアコンの効かぬ書斎に一人の時など、ゆっくり自分の滅ぶ音を住人は聞く。家がそれを聞かせると分かっていても知らぬ振りで床間を背に、したしたした。(まめ)

 

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