いちご俳句会2020特別句会｢ 埴生の宿句会 」
〜西村麒麟さんとのメール句会〜(作品集）
（2020.7.1～8.10）
・題『風鈴』『金魚』『胡瓜』、1人最大十句を投句
・1人五句選（特選一句、並選四句）
・互選（特選…2点、並選…1点） ※西村麒麟さんの選は点盛無し
【西村麒麟選】
〈特選〉
草笛や九歳とてもナルシスト （白石久美子）
特選（評）九歳というまだ十代にもならない微妙な年齢が成功していて、不思議な魅力があります。ちょっと澄ました顔で草笛を吹いているのでしょうか。
＊互選 3点
風鈴や昨日と違ふこと云はれ （犬星星人）
特選（評）当たり前ですが、今日と言う日は昨日と違う風が吹く、そして明日もまた。少々がっかりしているようですが、案外みんなそんなものです。風鈴のように軽やかに涼しい心を持ち続けたいものです。風鈴が面白く効いています。
＊互選 3点
山ほどの胡瓜もらへる会社かな （犬星星人）
特選（評）何の会社か、なぜ胡瓜をくれるのか、全くわからないあたりが妙に面白い句です。胡瓜と言う季語が持っている健康的な明るさが効果的に使われています。この句、試しにトマトや茄子、他の野菜に置き換えると全く面白くないところが不思議。
＊互選 1点
風鈴やしぶしぶ人に会はされて （まめ）
特選（評）無理やりお節介な人に友人を紹介されたり、気の進まないお見合いであったり、いくつかの場面が想像出来ます。「会はされて」の嫌だなぁと言う感情が漏れているところも句として面白い。風鈴だけが涼しく鳴っているのでしょう。
わが庭の至るところが金魚の墓 （ヒッチョ長月）
特選 （評）何度も飼育し、その数だけ必ず死ぬ。特に死にやすい小さな金魚を飼う人の庭はこうなるのかもしれませんが、句にするとなかなか凄まじい。鮮やかな金魚の魂が今日も庭を行ったり来たりしているかもしれません。
観音に食べられそうな金魚かな （岡村知昭）
特選 （評）観音様も金魚もセクシーで美しい存在です。観音様が金魚を食べる（吸うのか）様子は妖しく、グロテスクでありながら、美しい。それほどに悪魔的と言えるほど、魅力的な金魚なのでしょう。素晴らしい詩心を感じました。
今日も壁方向へ行く金魚かな （針弓）
特選 （評）なんで壁の方へ行くんだろう、そっちに何があるんでしょうか。人間に悩みがあるように、金魚もまた色々と考えがあるのかもしれませんね。悩める金魚、でも出来ればこっちを向いて欲しい。珍しい金魚の句だと感じました。
〈入選〉
野球見る父の握っている胡瓜 （水の机）
入選 （評）子から見るとこの日の父の胡瓜は不思議と美味しそうに見えたのでしょう。子どもの頃食べてもそれほど美味しいものでは無いですが、大人になると美味しくなるのは胡瓜の謎。
＊互選 2点
もう一度ピュアな気持ちで胡瓜噛む （知念帆意）
入選 （評）「ピュアな気持ち」が可愛いですね。大人になって忘れてしまった気持ちを思い出そうと、ガリっと胡瓜を噛んでみる。しかし、胡瓜は残念ながら大人の味かもしれません、美味しいけど。水分の多い胡瓜に合う句。
＊互選 1点
ただよふは金魚の糞のゆうとぴあ （犬星星人）
入選 （評）そろそろ掃除が必要な頃かもしれません。ゆうらゆらと揺れる様が「ゆうとぴあ」の表記と音を連想させます。なんとなく平和な感じが句から漂っています、ディストピアで無くて良かった…。
＊互選 1点
月見てる鉢の中なる出目金魚 （のんき）
入選 （評）飛び出した出目金の目が月を見ているのが、どこか愛しい。普段明るく振る舞っている人が、ふっと寂しそうな顔をするような感じも句から漂っています。
子の音読始まる昼や胡瓜もみ （まめ）
入選 （評）自分の子でも良いし、ご近所さんの子でも良いですが、いつも音読が昼頃に聞こえて来るのでしょうか。ほら始まったと作者は何だか嬉しそうです。リズムよく胡瓜もみが出来そう。
腰を振り喜怒哀楽の金魚かな （つよし）
入選 （評）目に飛び込んで来る喜怒哀楽の表記が、豪華な金魚がふりふりと泳ぐ様に見えてきます。金魚の貫禄のようなものも感じます。
お向かいの犬は元気か江戸風鈴 （水の机）
入選 （評）ご近所さんとの付き合いがしっかりありそうなところが楽しい。なんせ犬の事まで気にしているみたいですし。明るく賑やかな町内を感じるのは「江戸」が効いているからでしょう。この場合は京では無く江戸が良い。
甘き死よ来たれ妖しきアマリリス （幸夫）
入選 （評）連続するアの音が印象的な句。甘い死など滅多な事では来ない、もしくは存在しない事を分かっているからこその「来たれ」なのでしょう。アマリリスがささやいているような妖しい魅力があります。
風鈴を下げて誰かを待つ心地 （白石久美子）
入選 （評）誰かを待っているのか、それとも風を待っているのか。少し寂しそうにも見えますが、こんな時間もまた静かで良いものです。風鈴を友として。
掬うとき金魚の泪水に消え （地由子）
入選 （評）掬われる時、金魚はぽろっと涙を流しているのかもしれません。しかも金魚掬いで見かける小さな金魚だと思うと可哀想にもなります。金魚の気持ちに沿う優しい句ですね。
天寿全う一度させたき金魚かな （ヒッチョ長月）
入選 （評）中七の表現により、一度も全うさせた事がないのがわかります。鯉なら長く生きますが、金魚はなかなか難しい、しかしだからこそ美しい。天寿という言葉は金魚には少々儚い。
園児泣かなくて風鈴鳴りにけり （岡村知昭）
入選 （評）泣くのか？泣くのか？と思いきやギリギリで園児が我慢出来たのでしょうか。風鈴がささやかな祝福のように感じられるところが良い。
高齢の金魚を貸してもらいけり （岡村知昭）
入選 （評）ドキドキする句。生きたまま返す難易度を考えるとなかなかのチャレンジャーです。しかも高齢の人から借りたとしたら面白い。
風鈴を見ればにゃんこの二三匹 （針弓）
入選 （評）風鈴に猫の絵が二、三匹描かれているのでしょうか。写実的な猫では無く、やや漫画的な猫かもしれません。ニャンコとしか呼べないようなニャンコは確かにいますね、可愛い句です。風鈴の側に猫が複数いると言う実景もあり得ますが（そうだったらごめんなさい）、ニャンコなら絵の方が可愛いかも。
ガラスの風鈴風よりもしづかなかたち （林達男）
入選 （評）読み上げた時のリズムが面白く、仮名を活かした繊細な表記からも、句自体がまるでガラスの風鈴のように感じました。詩情のある句。
【互選】
朝のパン金魚にちぎる登校日 （地由子） 5点 ヒッチョ長月 特選
白石久美子 並選
幸夫 並選
川村胡桃 並選
草笛や九歳とてもナルシスト （白石久美子） 3点 まめ 特選
水の机 並選
＊西村麒麟 特選
風鈴や昨日と違ふこと云はれ （犬星星人） 3点 青葉 特選
川村胡桃 並選
＊西村麒麟 特選
風鈴の止みて密談終はりたる （つよし） 3点 地由子 特選
青葉 並選
出目金やなにかと曰く付きの家 （水の机） 3点 知念帆意 並選
岡村知昭 並選
犬星星人 並選
地球とはとある惑星金魚鉢 （水の机） 3点 しょび7 特選
つよし 並選
短冊の文字は母の手軒風鈴 （青葉） 3点 のんき 特選
ヒッチョ長月 並選
金魚尾を振る振るほどは進まない （知念帆意） 3点 犬星星人 特選
幸夫 並選
火曜日はよく肥りたる金魚かな （犬星星人） 3点 川村胡桃 特選
岡村知昭 並選
野球見る父の握っている胡瓜 （水の机） 2点 岡村知昭 特選
＊西村麒麟 入選
縁日の子の目に揺らぐ金魚かな （まめ） 2点 ねこ 特選
父母死にてどこでもゆける金魚草 （まめ） 2点 しょび7 並選
川村胡桃 並選
風鈴の辻を曲れば花街なる （つよし） 2点 林達男 並選
幸夫 並選
価値観はみんなバラバラ胡瓜買う （水の机） 2点 針弓 特選
ポテサラの胡瓜微かに歯にひびく （地由子） 2点 しょび7 並選
針弓 並選
風鈴を鸚鵡がまねる昼さがり （地由子） 2点 林達男 特選
もう言わぬ長髪の金魚売には （岡村知昭） 2点 川村胡桃 並選
地由子 並選
フォービート刻む胡瓜の叩き売り （針弓） 2点 のんき 並選
知念帆意 並選
紫蘇の実や宿の厨が一寸見え （西村麒麟） 2点 白石久美子 特選
透明な声出して呼ぶ金魚かな （西村麒麟） 2点 林達男 並選
水の机 並選
風鈴は風の器風がこぼれる （林達男） 2点 つよし 特選
山ほどの胡瓜もらへる会社かな （犬星星人） 1点 岡村知昭 並選
＊西村麒麟 特選
ただよふは金魚の糞のゆうとぴあ （犬星星人） 1点 地由子 並選
＊西村麒麟 入選
もう一度ピュアな気持ちで胡瓜噛む （知念帆意）1点 ヒッチョ長月 並選
＊西村麒麟 入選
風鈴や猫一列に眠りをり （まめ） 1点 白石久美子 並選
胡瓜囓り再放送のドラマかな （まめ） 1点 針弓 並選
らんちうや老爺の妬心長引きて （まめ） 1点 青葉 並選
金魚埋めし場所を忘れて母校かな （まめ） 1点 白石久美子 並選
曲らねばならぬ胡瓜の定めとも （つよし） 1点 ヒッチョ長月 並選
金魚ふと十二単の起居かな （つよし） 1点 のんき 並選
音楽堂向かひ露地市太きゅうり （幸夫） 1点 岡村知昭 並選
金魚飼ふ塵一つ無き子なき家 （幸夫） 1点 のんき 並選
車座はあぐら西瓜を
疫病に地球盗られて胡瓜もみ （ヒッチョ長月） 1点 つよし 並選
風鈴やマンションの窓嵌め殺し （青葉） 1点 まめ 並選
口走りそうでこらえて胡瓜揉 （岡村知昭） 1点 犬星星人 並選
冷やし胡瓜昭和の味を残すイボ （針弓） 1点 知念帆意 並選
割り胡瓜長めな方が君の方 （針弓） 1点 まめ 並選
いつ訪ねても完璧なメロンあり （西村麒麟） 1点 まめ 並選
跳ねているアスファルトに金魚 （林達男） 1点 幸夫 並選
きうり一本片手にうつほ物語 （犬星星人） 1点 しょび7 並選
出目金に吾の裸眼の近づきぬ （犬星星人） 1点 地由子 並選
水打つや風鈴鳴りやむ暑さかな （のんき）
となりやの風鈴なりて風来たる （のんき）
我が水槽夜店の金魚の終の宿 （のんき）
朝の畑露玉はねる胡瓜もぎ （のんき）
もぎたての胡瓜がつける玉の露 （のんき）
風鈴や子の誕生日父忘れ （まめ）
フーテンに一家言あり胡瓜掻く （まめ）
婆さんのがりりと齧る胡瓜かな （つよし）
風鈴も寡黙饒舌ありぬべし （つよし）
ボート漕ぐ二の腕ほどの胡瓜買ふ （幸夫）
土曜日も早起きの主婦きゅうりカリッ （幸夫）
そぞろに愛す風鈴の音軒庇 （幸夫）
金魚玉下げしは鴨居また長押 （幸夫）
円周率果てねど暴れ梅雨いかに （幸夫）
胡瓜もぐ朝露匂ふ籠運ぶ （地由子）
門先に人の声あり吊りしのぶ （地由子）
風止んで煽いで風鈴遊ばせし （地由子）
リボンの金魚吊るす病室兄の夏 （ヒッチョ長月）
絶交をしてから鳴らぬ竹風鈴 （ヒッチョ長月）
エアコンの罪の重しと泣く風鈴 （ヒッチョ長月）
風鈴や不要不急と誰が宣ふ （ヒッチョ長月）
へぼと言うな自由に生きてをる胡瓜 （ヒッチョ長月）
パリパリのトゲトゲ胡瓜ついぞ見ぬ （ヒッチョ長月）
白い歯に水の滴る胡瓜かな （ヒッチョ長月）
箱釣や裸電球乱反射 （青葉）
乱切りの胡瓜山盛り庫裡の風 （青葉）
首塚に似合う深紅の風鈴よ （岡村知昭）
再開は不明きゅうりをかじりけり （岡村知昭）
屋上や九十歳はきゅうり噛み （岡村知昭）
またあとで陶の風鈴鳴りだして （岡村知昭）
風鈴や補陀落についての講義 （岡村知昭）
安っぽい風鈴の音を聞きに来て （針弓）
雑巾がけ風鈴を鳴らさぬやうに （針弓）
出目金も金魚も何処に金あるか （針弓）
共食うも目玉は残す金魚かな （針弓）
出目金や根も葉も茎もあるウワサ （針弓）
薄き本読みつつ囓る胡瓜かな （西村麒麟）
知恵絞り大玉西瓜運びけり （西村麒麟）
貝割菜皿もフォークも島の木で （西村麒麟）
友達の家風鈴の鳴り続け （西村麒麟）
風鈴や魚突く銛を立てかけて （西村麒麟）
先生の囓る胡瓜の美味さうな （西村麒麟）
風鈴吊らる夏の犬の舌のように （林達男）
鉄の風鈴女と暮らしたかなしさに （林達男）
風鈴は近くて遠く耳の奥底 （林達男）
琉金の不自然だと悲しめよ （林達男）
夕焼けの底で破裂す金魚玉 （林達男）
ゆふぐれの父に胡瓜のよく似合ふ （犬星星人）
風鈴は金魚二匹を泳がする （犬星星人）
目瞑りて風鈴の音の見えてをり （犬星星人）
西村麒麟先生、皆様ご参加ありがとうございました。
またご一緒できる日を楽しみにしております！
いちご俳句会
