西村麒麟 秋冬句鑑賞
盆棚の桃をうすうす見てゐたり
西村麒麟
艶めき発光するのは
自分の光を知らぬもの
上等な真の客体
(まめ)
踊子の妻が流れて行きにけり
西村麒麟
妻の躍動を夫は傍観するしかない。彼女は彼のオフィーリアそしてモイラであるから。
(まめ)
けふの月下からぽんと押され出て
西村麒麟
楕円に膨れた月
色紙を暗夜に貼り付けたような月
月は屡々不自然で、その理由は地球を近くで監視する人工物だから、という説
今宵も生まれたてのような月
(まめ)
草相撲代りに行つて負けにけり
西村麒麟
秋風やここは手ぶらで過ごす場所
西村麒麟
露の世の全ての露が落ちる時
西村麒麟
西村麒麟さんの句に死に場所の定まらぬフーテンが現れる時がある。静かで老いても病んでもおらず其処に居る。別の日に探すがもう居ない。(まめ)
金屏の江戸はもくもく雲浮かべ
西村麒麟
金屏の江戸の人にも日々の営み、希求、慰めがあり、喧騒、におい、労務の中に居たのだろう。
金屏の中の私達は数百年後に愛らしく、絢爛だろうか。入道雲もまた。(まめ)
白鳥の看板があり白鳥来
西村麒麟
白い綺麗な大きな鳥と私は並んで漆黒の空を飛ぶ。白鳥の翼の先と手をつなぐようにして。土星の輪と、時間のリボンが見える……クレヨンで描く程子どもを魅了した白鳥の形は、母が教えた。その頃の母の形も覚えている。(まめ)