西村麒麟 春夏句鑑賞
ぷつぷつと口から釘や初桜
西村麒麟
或る事柄への執着が深部に積もる身は容易に生きることも死ぬことも出来まい。その澱が一本ずつ、きれいな形で体外に出て、それが月光に鈍く光る地上の跡となって、月光を一人占めする桜よりも人目を引かぬものだろうか。(まめ)
灯を提げて人美しき祭かな
西村麒麟
灯に浮かぶ祭髪
闇に心が知らぬまに溶け出す
遠くに香具師の声
囃子の調
(まめ)
ぼうふらの音無けれども賑やかな
西村麒麟
無音の慕わしさ
無音の恐ろしさ
(まめ)
いつ訪ねても完璧なメロンあり
西村麒麟
据えて良、ひと切れ器に載せるも良、お中元に次々にマスクメロンの届く家でのお相伴。マスクメロンは買うより頂く物、である。(まめ)
友達の家風鈴の鳴り続け
西村麒麟
友人宅で聞く風鈴は、友人の領域の音がする。
家での家族への振舞いは友人を、私に全く馴染みのない人間に見せ、時に息を呑む自分に気付き当惑するが、平穏な表情を保つ。今の私は友人の前で奇妙な訪問者なのだろう。(まめ)